血圧とは動脈にかかる圧力です。心臓は高い圧力で血液を動脈に送り出し体中に血液を送りだしています。この時、動脈の壁に内側からかかる圧力を血圧と言います。
通常は、「上120oHg、下80oHg」などと2つの値で血圧を言います。上とは心臓が収縮して血液を送り出した時の血圧を指し 収縮期(最高または最大)血圧と呼びます。逆に下とは心臓が拡張して血液を心臓の中に取り込んだ時の血圧を指し、拡張期(最低または最小)血圧と言うわけです。
血圧の高さは心拍出量(血流量)と血管抵抗で決まります。一般に老年者では、血管弾性の低下などのために血管抵抗が上昇して血圧が高くなることが多いです。
血圧は一定ではなく、いろいろな条件によって変動します。例えば、運動した場合などは心拍出量と血管抵抗が共に上がるので血圧は上昇します。
また季節にも影響されます。夏よりも冬が高くなりますし、年齢にも影響され、子供より大人のが高くなり、高齢になるに従い上昇します。
なお、家庭用血圧計を使用している方は、朝に起床した直後に排尿をし食事の前に座って計った血圧(基礎血圧)を自分の血圧の目安とすればよいです。日
一般的に血圧は加齢とともに上昇してくるため、厳密にはどこから高血圧と定義するか、その境界を決めることはなかなか困難であるわけです。その境界は、そのレベルの血圧以上となった場合に、脳血管障害や心不全あるいは虚血性心疾患といった血圧に関係した諸疾患が発症しやすくなるような境界があるはずです。
血圧は、同じ人でも1日のうちでかなりの変動があり、また測定する条件によっても異なるため、一定の条件下で、ある一定の時刻に測定される血圧値が基準とされます。
家庭では、通常、朝の基礎血圧測定と就寝前の2回の測定で十分です。
前述したような測定条件に注意して、診察室で測定された血圧を基準として、高血圧かどうかが判定されているわけです。高血圧の定義は人為的になされたものであり、時とともに変わるわけです。
1999年WHO/ISH(国際高血圧学会)ガイドラインでは混乱を避けるために、従来の高血圧の診断基準をJNCZ(米国合同委員会)の診断基準に基本的に統一しました。
その後、2003年にJNC7、2003ESH−ESCガイドライン、2003WHO/ISH statementとガイドラインの改訂がなされました。140/90oHg以上を高血圧とすることはいずれのガイドラインでも共通であります。本邦の研究においても収縮期血圧が120oHg未満、拡張期血圧が80oHg未満の心血管病の累積死亡率が最も低く、収縮期血圧140oHg以上は120oHg未満に比し、また拡張期血圧90oHg以上は oHg未満に比較して、高齢者を含めて心血管病のリスクが有意に高い事がわかりました。NIPPON DATA80においても同様に140/90oHg以上での全循環器病疾患死亡率の上昇を認めています。
これらのことから、JSH2004(日本高血圧学会)においても軽症高血圧以上の高血圧の基準は従来通り140/90oHg以上としました。JSH2000ガイドラインにおいては、1999WHO/ISH、および2003ESH−ESCガイドラインと同じ血圧分類を採用しています。
あえて前高血圧(prehypertension)という新しい概念を導入するまでもなく、正常高値には、十分に高血圧一次予防への意志が包括されています。
また120/80oHg未満を至適血圧とすることから、120〜129/80〜84oHgの正常血圧がすでに至適血圧を超えている事実を示唆しています。
一方、180/110oHg以上の高血圧を重症と認識することは臨床上有意義であり、2003ESH−ESCガイドラインも2003WHO/ISH statementもこの概念を残していることから、JSH2004ガイドラインもこれを踏襲しています。
これまでJSHのガイドラインでは血圧のレベルの分類を軽度、中等度、重度としていましたが、軽度高血圧でも高リスクの高血圧である場合があり、混乱を避けるためにJSH2009では軽度をT度、中等度をU度、重度をV度と置き換えました。JSH2009においてもT度以上の高血圧の基準は従来通り140o/90oHg以上とし、1999WHO/ISHガイドライン、およびESH−ESC2007ガイドラインと同じ血圧分類を採用しています。
外来血圧による血圧分類は、降圧薬非服用下で、初診時以後に複数回来院し、各来院時に測定した複数回の血圧値の平均値で決定されます。
また、縮期血圧と拡張期血圧はそれぞれ独立したリスクであるので、収縮期血圧と拡張期血圧が異なる分類に属する場合には、高い方の分類に組み入れることになります。
<表1.成人における血圧値の分類>
分 類 |
収縮期血圧 |
|
拡張期血圧 |
至 摘 血 圧 |
<120 |
かつ |
<80 |
正 常 血 圧 |
<130 |
かつ |
<85 |
正常高値血圧 |
130〜139 |
または |
85〜89 |
T 度 高 血 圧 |
140〜159 |
または |
90〜99 |
U 度 高 血 圧 |
160〜179 |
または |
100〜109 |
V 度 高 血 圧 |
≧180 |
または |
≧110 |
収縮期高血圧 |
≧140 |
かつ |
<90 |
近年家庭血圧値による血圧分類は一般化しつつあります。JNCY JNC7および2003ESH−ESCガイドラインでは、欧米の断面的調査や本邦の研究を根拠に135/85oHgが高血圧の基準値であるとしています。
一方、1999年のWHO/ISHガイドラインは125/80oHgが診療所血圧140/90oHgに相当するとしています。
したがって、125/80oHg未満は正常血圧と考えられます。家庭血圧を用いた世界で唯一の前向き観察研究である本邦の研究において、総死亡の最も低い点から相対危険比が10%上昇する点を高血圧とすると、その値が137/84oHgであることが示されました。
一方、心血管病死亡の相対危険比の最小となる家庭血圧値は、120-127/72-76oHgであり138/83oHg以上で相対危険比が有意に上昇することから、JSH2000ガイドラインは家庭血圧の高血圧を135/80o以上としました。
一方、ESH−ESC2007ガイドラインでは、130-138/85oHgを家庭血圧値高血圧基準とし、収縮期血圧に幅をもたせている。しかしながら、JSH2004の基準値も認識率が上昇していることから、JSH2009ガイドラインにおいても135/85oHgを高血圧基準とし125/80oHgを正常基準とする。
したがって、125/80oHg以上と135/85oHg未満の間は正常血圧とは言えず、少なくとも正常高値以上の血圧域にあると考えられるわけです。
高血圧を原因の上から分類すると、原因が不明なものを一次性(本能性)高血圧とし、原因が明らかな二次性高血圧と区別します。
二次性高血圧は、頻度は少ないですが、種々のタイプがあります。腎性、内分泌性、血管性高血圧等は外科的に治療可能な場合が多く、また、薬物による高血圧も服薬中止により、正常化することから診断上重要です。
一次性高血圧は高血圧症の80%以上をしめますが、その原因は、長い間不明であり、これまでの高血圧者の家系分析、双生児、兄弟姉妹、母親とその子供などの研究から、高血圧発症には遺伝子が関与していると、推測されています。
高血圧発症に関係する遺伝形式として、現在では、多遺伝子説を支持する知見が多いです。
遺伝子を解明するために実験動物が飼育されているわけですが、高血圧ラット(spontaneous hypertensive rat・SHR)はじめ、世界中で約7種類分離されています。その中には、食塩を負荷してはじめて高血圧を発症するラットや脳卒中易発症ラットのように、重症の高血圧を発症し、ほぼ全例が脳血管障害を発症して、死亡するユニークなラットまであります。
このように動物では、ある程度遺伝子との関係が明らかになって来ており、人間の遺伝子解明の手助けとなっています。
高血圧には、その原因により、本能性高血圧と、二次性高血圧にわけられます。二次性高血圧症は高血圧をきたす原因が明らかなもので、頻度は少なくなく、適切な治療により根治可能なものがあり、その診断は重要です。
近年、高血圧症の診断と治療に関してたいへんな進歩がみられ、根治可能な高血圧症についてもその様相が一変しています。
代表的な二次性高血圧症には、腎実質性高血圧、腎血管性高血圧症、内分泌性高血圧、血管性高血圧、脳・中枢神経系疾患による高血圧、遺伝性高血圧、薬剤誘発性高血圧などがあり、二次性高血圧の頻度は母集団により異なりますが、一般的な報告によると5%程度と考えられています。
しかし、若年の重症高血圧患者では、その頻度は50%以上という報告もあります。二次性高血圧では、腎性高血圧が最も多いとされていましたが、最近は原発性アルドステロン症が従来考えられていたよりも多く、高血圧患者の3〜10%を占めるという報告があります。甲状腺機能低下症や夜間無呼吸症候群、脳幹部血管圧迫を示す患者も少なくなく、高血圧患者における二次性高血圧症は10%以上であろうと考えられています。
治療は診断基準が各国によって違うように、降圧剤の治療開始基準も各国によって違い、使用する薬剤も違います。
2010.7.1