健康が議論される中、日常の注意によって管理される疾患、高脂質血症、糖尿病、肥満症などの代謝疾患に関心があつまっています。
食生活の欧米化により、日本人の血清脂質濃度は米国人とほぼ同じレベルまで上昇し、高脂質血症は国民の30%,予備軍を合わせると3,000万人以上と言われています。
死亡数こそ近年減少していますが、虚血性心疾患や虚血性脳疾患の患者の発生頻度は、むしろ漸増し、30〜40歳代の若年層の心筋梗塞も目立ってきています。高脂血症の改善などを行い、これらの動脈硬化性疾患の予防をはかっていくことが重要です。
症状はなくても、動脈硬化は進むこと、動脈硬化が進めば、心筋梗塞・狭心症・脳梗塞・下肢動脈閉塞症などの重大な疾患を招くことを知っておかなければなりません。喫煙、高血圧、家族歴などのリスクを多く持つ患者さんには特に十分な注意が必要となります。
血清脂質のうち、動脈硬化性疾患のリスクとして、コレステロール値が重視されてきましたが、現在は中性脂肪も明らかなリスクと認識されており、高値の患者さんは治療が必要なこともあります。
高脂血症は、ひとことで言うと「血液中の脂質の濃度が高くなる病気」です。
血液中には、「リポ蛋白」という形で、さまざまな脂質が流れています。脂質にはコレステロール、リン脂質、中性脂肪(トリグリセリド)、ほかに遊離脂肪酸がありますが、普通はこのうちコレステコールまたは中性脂肪の量が正常よりも多くなった状態を高脂質血症といいます。
HDLはHigh
Dencity Lipoproteinの略で、要するに日本語では高比重リポ蛋白と言います。これはリポ蛋白を超遠心分離しますと、比重の違いで軽い物より重い物まで6種類の分画に分けられます。
この中で一番重い部分であると言う意昧で、特別な物質を指す訳でなく、そのHDLの中にコレステロール、リン脂質、トリグリセリドなどがまぜこぜになった状態であると考えられます。
高脂血症が起こる原因には、大きく分けて
@ 聞題のある生活習慣によって起こるもの。
A 遺伝的な原因で起こるもの。
B 他の疾患が原因で起こるもの。
があります。
@は、暴飲・暴食や運動不足による肥満などが原因で起こるものです。
Aは、遺伝的に受け継いだ体質が原因で起こるもので、肉親や家系に高脂血症の人が多い場合は、家族性高脂血症と呼ばれます。動物では肥満の遺伝子の見つかっているものもあります。日本には、遺伝的にコレステロール値が高い家族性高コレステロール血症と呼ばれる病気の人が、約500人に1人の割合でいると言われています。
Bは、糖尿病、甲状腺機能低下症など、ほかの病気が原因でおこります。高脂質血症は、正確にはどのリポ蛋白が増えているかでV型に分類されます。しかし、一般的にはどの脂質が多いかで分類すれば十分です。大きくいって、主な高脂血症は3タイプです。
@ コレテロールが多いタイプ
A 中性脂肪が多いタイプ
B コレステロールと中性脂肪の両方が多いタイプ
の3つに分けられます。
日本人の場合、Aは男性に多く、@は女性に多いです。どのタイプかによって、食事の際に気をつける内容や使われる薬の種類が変わりますので、自分がどのタイプかをよく知っておく必要があります。
高脂血症が問題なのは、高脂血症は動脈硬化によって起こる、さまざまな合併症を引き起こすからです。動脈硬化は、コレステロールや細胞、およびその死骸などで、できた塊が血管の内側にたまる病気で、このために血管の内腔は狭くなり、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの病気を引きおこします。
さらに、ほかの因子が加わるとリスクは増します。高脂血症に、ほかの因子が加わると、動脈硬化の危険がはるかに増すことがわかっています。
こうした因子には、性別では男性と閉経後の女性、家族に若い時に狭心症や心筋梗塞になった人がいること、高血圧、糖尿病、痛風などの病気を持っていること、喫煙の習慣、肥満などがあります。高脂血症を治療する最大の目的は動脈硬化の進行を止めることです。
検診などでは @高LDLコレステロール血症
A高トリグリセリド血症
B低HDLコレステロール血症
を基準として用います。
脂質異常症として治療が必要になる血清脂質の数値は、従来は合併症のない場合は総コレステロールが220r/dl以上と考えられていました。
最近では、合併症も考慮して表のように考えられています。危険因子の多い人は目標も厳しく、糖尿病や高血圧など複数のリスクを持っている人や、すでに狭心症の発作があるというような人には、LDLコレステロール値、中性脂肪値ともに目標値をより厳しくした治療になります。
高LDLコレステロール血症 LDLコレステロール ≧140r/dl
低HDLコレステロール血症 HDLコレステロール < 40r/dl
高トリグリセライド血症 トリグリセライド ≧150r/dl
(動脈硬化疾患予防ガイドライン 2007年版)
高脂血症の治療目標は、人によって変わります。強力な治療薬が開発され、治療は容易になりましたが今でも食事療法、運動療法、喫煙その他のライフスタイル改善は重要です。
<リスク別脂質管理目標値>
治療方針の原則 |
カテゴリー |
脂質管理目標値 (r/dl) |
|||
LDL-C以外の |
LDL-C |
HDL-C |
TG |
||
|
主要危険因子※ |
||||
1次予防 |
T(低リスク群) |
0 |
<160 |
≧40 |
<150 |
まずは生活習慣の改善を行った後、薬物治療の適応を |
U(中リスク群) |
1〜2 |
<140 |
||
考慮する |
V(高リスク群) |
3以上 |
<120 |
||
2次予防 |
冠動脈疾患の既往 |
<100 |
|||
生活習慣の改善とともに薬物治療を考慮する |
|||||
|
※ LDL−C以外の主要危険因子
その他の危険因子とは、加齢(男性45歳以上、女性≧55)、冠動脈疾患の家族歴、喫煙、高血圧、肥満糖尿病、高TG血症、末梢動脈硬化性疾患、脳梗塞、低HDL-C血症
☆冠動脈疾患とは心筋梗塞、狭心症、冠動脈硬化症など
☆糖尿病,脳梗塞,閉塞性動脈硬化の合併はカテゴリーVとする
(ガイドライン2007)
2010.7.1